ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンは、リアルタイム3D(RT3D)コンテンツを制作・運用するための世界的にリードするプラットフォームである「Unity」の日本国内における販売、サポート、コミュニティ活動、研究開発、教育支援を行っています。
世界1のシェアを誇るゲームエンジンUnity。ARやVRの分野、そしてゲーム以外の世界でも幅広く活用されています。同社で人材開発と研究を続ける簗瀬さんに、ゲーム、そしてメタバースの今後さらに活躍できる人材になるための秘訣も伺いました。
●Unityは今後どうメタバースの世界をつくっていこうと考えていますか?
簗瀬そもそも前提として、メタバースをつくるのは我々ではありません。メタバースをつくる人たちがUnityを使ってくれるかどうか、それが重要なんです。実際今、世界中にあるメタバースというものの多くはUnityが使われていて、誰でも自分の思うメタバースがつくれる状態になっています。数人のために個人でメタバースを完成させようとしている人から、数万人、あるいは数百万人のためのものをつくっている人もいます。メタバースとはそもそもコミュニケーションのためのもの。なんのために、誰と誰がコミュニケーションするのか、目的はそれぞれでしょう。新しいコミュニケーションが生まれた時、自由にそれぞれにあったメタバースがつくれる状態、それが理想なんです。
●学生に向けて、Unityのおすすめの使い方を教えてください。
簗瀬将来ゲームクリエイターを目指す人には、Unityを使ってゲームをたくさんつくってほしいです。ゲームクリエイターとしての実力をあげていくためには、どれだけのゲームをつくってきたかが重要になってきますからね。また、SNSで日常のちょっとしたことをつぶやいたり、記録したりする、そんな感覚で、すごくくだらないことにも使ってほしいです(笑)。例えば引越し前に「新居の階段に冷蔵庫が通るか」とか、新居がどの時間、どの建物の陰になるのか、なんていうことをシミュレーションしたり。専門のアセットをみつければどんなことでもなんでもできますから。特段なにかつくる予定がなくても、新しい機能やアセットがでたらとにかく触ってほしいです。一度やってみれば、それはきっと新しいアイディアにつながります。
●Unityやゲーム業界全体では、どんな人材が求められますか?
簗瀬実はどんな人が欲しいかというのは、時期とチーム構成によるんです。常に絶対欲しい、万能な人というのはいません。すぐに現場に入って第一線で働ける即戦力が欲しい場合、会社もあれば、今すぐは現場に入れなくても、数学や英語が得意で将来的には論文を読んで実装できるような人に入ってもらいたい、ということもあります。だから皆さんも目指す企業があるなら、それぞれの会社でどんな人を求めているのか、見極めることが大事です。けれど基本的には、「これまでこんなものをつくりました」という例をたくさん出せる人が強いかもしれません。たくさん実績があれば企業に何かがヒットする可能性は大きくなります。だからこそ、日頃からどんどんつくっていってほしいですね。
●趣味が仕事に活きることはありますか?また日常の生活からゲームづくりのために意識できることはありますか?
簗瀬趣味はおおいに仕事に活きますよ。Unityは簡単に使えるので、逆にいえば「使える」というだけでは強みにはなりません。Unityが使えて、なにか専門知識がある、これが大事です。またゲームデザイナーでも、プログラマーでも、「なにがどうおもしろいのかを説明できる」ということはとても重要です。例えばあなたがフィギュアスケートを見るのが趣味だとしたら、その選手のなにがすごいのか、じっくり観察して、説明できるようになってほしいです。それで誰かに「なるほど、その選手はすごいね」と思わせられたら、きっとあなたがつくるゲームに対しても、「面白そう」と伝えられる。ゲームの現場では自分の言葉でコミュニケーションをとっていくことがとても重要になってきますからね。ちなみに私は趣味も仕事もゲームですが(笑)、趣味の時間にやっているゲームの、よくできたところに気がつけるのが嬉しいんです。「このゲームわかりやすいな、操作しやすいな、きっとすごく工夫したんだな」とわかる。通常、わかりやすいものって、そこまでに至るのが難しいことだって気がつけませんからね。
●今、VRやARはどんどん身近になってきています。将来どのくらいの規模になると予想されていますか?
簗瀬ARの方が先に市場規模が大きくなると考えています。VRグラスは視界を覆ってしまうので生活の中でずっとつけるのはまだ難しいでしょう。それよりも先にカッコいいARグラスができれば、日常の中でARで情報収集し、表示しながら過ごすということができるようになるかもしれません。また、今私たちが目にしているARやVRというのは、ゲームやエンタメで使われているものが多いですが、実際はさまざまな仕事の現場で普及を始めています。例えば建築現場。今からどういうビルが建つのかARで表示したり、壁の中にどう配管や電気配線が通っているのかを図面からおこして、表示するなどという技術はすでに使われています。建築はお金も時間もかかるので、一度建ててしまったら、やり直しがききませんから、ITを使ってミスがないようサポートするということが始まっています。こうして実際の現場で使われたもの、技術が、だんだんコミュニケーションや新しいエンタメに変わっていって、一般に普及していくのだと予想しています。
●さまざまな仕事にARやVRの技術が使われるのだとしたら、学生は技術を学ぶだけでは不十分なのでしょうか?
簗瀬そうともいえません。例えば先ほど例に挙げた建築現場に行ったとしたら、そこには建築のプロがたくさんいるはずです。けれどあなたにはARやVRの技術がある。建築の専門家が「こういうものがあるとうれしい」というリクエストをくれるでしょうから、それぞれの専門家と協力してつくっていくことができます。まず大事なのは新しい知識をちゃんと体系的に学んで、ソフトウェアをつくれるまでになることです。
●ゲームクリエイターを目指す学生たちにメッセージをお願いします。
簗瀬思いついたらすぐやってみる癖をつけてほしいです。エンジニアはどんなプロジェクトでも経験値にできます。「知っている」「触ったことがある」ということがのちのちとても重要になってきますから。そして余力があれば、ゲームショーや、作品を企画制作するコンテスト「IVRC」、ソフトウェア関連のイベント、ハッカソンなどに参加してみてください。そういう場ではプロのエンジニアの人たちが見てくれますから、きっと将来のきっかけになるでしょう。好きをきっかけに、どんどん動いていってください。